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大阪地方裁判所 昭和23年(行)137号 判決

原告 森田淳一

被告 三野郷村農業委員会・国

主文

原告の請求中、被告農業委員会に対し買収計画の取消をもとめる部分および被告国に対し、買収令書発行の無効確認をもとめる部分を棄却する。

本訴のうち、その余の部分を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「三野郷村農地委員会が、別紙物件表記載の土地について定めた買収計画ならびに右買収計画に基く政府の買収を取消す。各被告は、原告に対し、前項の買収の無効なること、ならびに、前項の買収計画およびこれに関する公告、承認、買収令書の発行の無効なることを確認すべし。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決をもとめ、その請求の原因として、つぎの通り述べた。

「三野郷村農地委員会(被告委員会)は、自作農創設特別措置法(自作法)により、原告所有の別紙物件表記載の土地(本件土地)について、昭和二二年一〇月一日、買収計画を定めて、その公告をし、同日から十日間買収計画書を縦覧に供した。そして、その後、大阪府農地委員会は、右の買収計画を承認し、大阪府知事は、右買収計画にもとずいて買収令書を発行した。

一、まず右の買収計画は、つぎの点で違法である。

(一)  自作法第五条第五号

本件土地のうち、九七番、九八番、九九番、一〇〇番、一四三番、一四四番、一四五番の七筆の土地は、自作法第五条第五号により買収から除外すべき土地である

(二)  保有面積

原告は、自作地五段強を所有するので、自作法第三条第一項第三号により小作地一町四段を保有することができるのであるが、被告委員会は、小作地六段を残したのみで、原告の所有する残余の小作地の全部たる本件土地全部について買収計画を定めた。原告の小作地保有量を侵害する違法の買収計画である。

(三)  面積と対価

本件土地の面積は、土地台帳に記載するところよりはるかに広い。土地台帳にもとずく買収計画書の面積の表示は失当である。そして、買収計画に定めた買収の対価は時価よりはるかに低い。また、外畦畔のある土地については、外畦畔について対価を定めていない。

二、つぎに、右買収計画、その公告、承認、政府の買収および買収令書の発行には、次の点の違法がある。

(一)  買収計画

(1)  本件買収計画は被告委員会作成名義の買収計画書なる文書をもつて表示されている。しかし、被告委員会に備付けてある議事録によれば、右の買収計画書と一致する決議のあつたことが明認し難く、また、右買収計画書には決議を要する買収計画事項の全部が完全には表明されていない。すなわち、右買収計画書は被告委員会の決議に基き、かつ法定の内容を具備する適式の買収計画と認めるに足りない。

(2)  買収計画書は委員会という合議体の行政行為的意思を表示する文書であるから、買収計画書自体に、委員会の特定具体的決議に基いた旨の記載と、その決議に関与した各委員の署名捺印あることを、その有効条件とするが、本件買収計画書には右の記載および署名捺印がない。

(二)  公告 農地委員会はその決議をもつて買収計画の公告という行政処分をしなければならない。その公告は、買収計画という農地委員会の単独行為を相手方に告知する意思伝達の法律行為である。公告によつて買収計画に対外的効力を生じ、適法な公告があつてはじめて政府と買収利害関係人との間に買収手続という公法上の法律関係が成立するものである。

(1)  ところで、本件買収計画の公告は、被告委員会の決議に基いていない。

(2)  また、被告委員会の公告ではなくて、その会長名義をもつてする会長の単独行為であり、その専断に出たものである。

(3)  公告の内容は買収計画の告知公表たるを要するにかかわらず、現実になされた公告には単にその縦覧期間と所在場所とを表示するにとどまる。かかる内容の公告は自作法第六条に定める公告としての要件を欠くものである。

(三)  承認 買収計画につき、市町村農地委員会は自作法第八条に従つて、都道府県農地委員会にその承認を申請し、都道府県農地委員会は、その買収計画に関する法律上事実上の事務処理について違法または不当の点がないか厳密に審査し、その承認を行うものである。すなわち買収計画の承認は、承認の申請に基き買収計画に関し検認許容を行う行政上の認許で、明らかに行政上の法律行為的意思表示であり、行政処分たる法律上の性格を有することは疑の余地がない。

買収計画はその公告によつて対外的効力を生じ、その存在を外部に対抗し得るにいたるが、さらにこれに対する適法有効な承認があつてはじめて、その効力が完成し、ここに確定力を生じ、政府の内外に対し執行力が生ずるものである。反言すれば、買収計画という行政処分は、適法な承認のあつた時に法律上の効力の完成をみるもので、このときに買収計画は確定的客観的に存在をみるものである。

ところで(1)本件買収計画に対しては適法な承認がない。大阪府農地委員会は、今次の農地改革における各買収計画に対し法定の承認決議をした外形があるが、あるいは市町村農地委員会の適法な申請に基かないものがあり、あるいは承認の決議が訴願に対する裁決の効力発生前になされたものがあつて概して承認の決議自体無効である。このことは本件買収計画に対する承認についても同様である。

(2) 本件の買収計画に対して承認の決議はあつたが、この決議に一致する大阪府農地委員会の承認書が同委員会によつて作成されてはいない。また被告委員会に送達告知されていない。すなわち買収計画に対する適法な承認の現出告知を欠く。故に承認なる行政処分は存在しない。かりに右の決議をもつて承認があつたものとするも、かかる決議は法定の承認たる効力がない。

(四)  政府の買収 自作法による農地宅地等の政府による買収は一種の公用徴収である。この政府の買収には広狭二義あり、狭義においては買収を目的とする行政処分のみを意味し、広義においてはこの処分とその執行とを包含する。狭義における政府の買収に関しては、特定の行政庁において独立の文書でこれを表示することなく、広義における政府の買収に関しては、知事が買収令書なる文書を発行してこれを被買収者に交付し又は公告し、これによつて狭義の買収処分すなわち行政処分を執行し、広義の買収すなわち公用徴収を客観的に具現完遂する次第である。そして狭義の買収は政府自ら行わず、その買収権限を各農地委員会に委譲し、各委員会はその決議をもつて買収計画を確立しこれを公告し、異議訴願なる中間手続を経た後認可または承認により各買収計画の確定をみる。すなわち狭義の政府の買収は政府自らの行政処分に属せず、政府から買収権限の委譲を受けた各委員会の行政処分に外ならない。そしてこの処分は買収計画に対する認可または承認が適法に行われてその効力を生じたことによつて成立する。しかし法律はこの場合、政府の買収の成立したことを外部に公表する独立の文書を要求しない。すなわち政府の買収に関しては、政府自らもまた各委員会も独立した政府買収書なる文書を作成することを要しない。故に政府の買収なるものは、買収計画に対する認可または承認なる外形的行為すなわち認可書または承認書が各委員会に送達せられたという法律事実の現出によつてその成立を確認すべきである。従つて政府の買収の有効無効は究極するところ買収計画および買収手続の有効無効の判定である。買収計画ないし買収手続上の各行政処分のいずれかに瑕疵があり無効であれば、買収そのものも無効である。

(五)  買収令書の発行 政府の買収なる行政処分は知事の買収令書の発行なる行政処分により執行せられる。この買収令書が適法に交付または公告され、執行の効力が完全に生じた時に政府の買収なる行政処分は完全に目的の達成をみる。すなわち広義の政府の買収は、買収令書の適法なる発行とその被買収者に対する適法なる告知により、客観的に具現し終局を告げる。この買収令書は具体的に言えば、認可または承認によりその確定力を生じた買収計画の執行処分に外ならない。右の通り、買収令書の発行は政府の買収という行政処分の執行であり、買収計画について適法有効な認可または承認のあつたことを先決要件とする。故に(一)買収令書に表示された買収要項が買収計画の内容に一致せざる場合、(二)買収令書の発行が適法なる認可または承認が効力を生ずる以前になされた場合(三)買収令書が買収計画に定めた買収時期以後に発行された場合、(この場合は買収計画の執行に該当しない)、(四)買収令書に誤記誤算がある結果、買収計画と内容を異にする場合(この場合は買収令書自体がその要素において無効である)は、いずれも、その買収令書の発行は無効である。現に本件買収令書は、買収の時期の後に発送されている。

従つて、本件の政府の買収は無効であり、また買収計画、その公告、買収計画の承認、買収令書の発行は、すべて無効である。」

また、出訴期間についてつぎの通り述べた。

「買収および買収手続上の各個の行政処分が、公権私権を棄損する場合には、被害者にその処分に対する異議権(広義の取消権)が生じ、この異議権を行使するために訴権が与えられる。行政訴訟の訴訟物はこの異議権であつて、買収土地の所有権でもなければ、行政処分そのものでもない。そして出訴期間の起算点は、訴権の行使が可能となつた時である。訴権は右の異議権成立後その権利が保護の必要を生じた時から活動する。この時が訴権行使の始期であり、従つて出訴期間の起算点とすべきである。

買収計画は承認によつて完成し執行力を生ずる。故に買収計画に対する異議権は承認の時に発生する。買収計画に対する不服の訴の出訴期間は、承認なる行政処分が適法に成立した上、異議権利者がこれを知つた時をもつてその起算点とすべきである。

また、政府の買収なる行政処分は、買収令書の発行という外形事実によつてその客観性を具現する。買収令書発行の形式のもとにその表示を見、ここに成立するものであるから、政府の買収に対する不服の訴は、買収令書の発行を知つた時から、その出訴期間を起算すべきであり、普通は買収令書に発行の日を明示するので、買収令書の交付または公告の日から起算すべきものである。

本訴が出訴期間内に提起した適法な訴であることは、右によつて明らかである。」

被告等訴訟代理人は、まず原告の訴のうち買収計画の取消をもとめる部分につき「原告の訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決をもとめ、つぎに本案について「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決をもとめ、答弁として、つぎの通り述べた。

一、被告委員会は、自作法にもとずき、昭和二十二年一〇月一日、原告所有の本件土地について買収計画を定め、その公告をするとともに十日間買収計画書を縦覧に供した。この買収計画に対して、原告は、異議の申立も訴願もしなかつた。そこで、大阪府農地委員会は、同年一二月一日右買収計画を承認し、その後大阪府知事は、右買収計画にもとずいて買収令書を原告に交付した。

もつとも、大阪府農地委員会は右承認について承認書を被告委員会に送付したが、被告委員会に到達したのは、承認書の日付より後であつたこと、また、買収令書が原告に送付されたのは、買収計画に定められた買収の時期(昭和二二年一二月二日)の後であつたことはみとめる。

二、出訴期間

右買収計画の取消をもとめる訴は、自作法附則第七条により、おそくとも、昭和二二年二月二六日までに提起しなければならない。昭和二三年七月一四日提起された本訴は、右買収計画の取消をもとむる部分については、不適法として却下すべきである。

三、原告のその他の主張について、

(一)  買収計画 自作法第六条によつて、買収計画においては(1)買収すべき農地、(2)買収の時期(3)買収の対価の三つの事項を定めることが規定されている。そして、買収すべき農地については、買収要件を規定した同法第三条の関係などから、所有者の氏名および住所、農地の所在、地番、地目および面積を明確にしなければならない。

被告委員会は、本件土地の買収計画において、(1)買収すべき各個の農地につき現況と買収要件を調査し、その結果を公簿面の記載と対照した上、すべて公簿面の記載に基いて、地目、地番、面積等を定め、(2)買収の時期を昭和二二年十二月二日と定め、(3)対価について、各個の農地につき、自作法第六条第三項本文の規定に従い、土地台帳法による賃貸価格に、田にあつては四〇倍、畑にあつては四八倍の倍率を乗じた最高の額を対価として定めた。

この買収計画は、被告委員会の議決によつて定められたものでその内容は買収計画書という文書によつて具体的に明確になつており、議事の経過は議事録によつて明らかになつている。

また、買収計画書には被告委員会名を記載してあり、これにより何人も被告委員会の定めた買収計画であることを認識し得る。委員会の決議に基いた旨の記載とか、その決議に関与した各委員の署名などは、必要ではない。

(二)  公告 公告は買収計画に対外的に効力を生ぜしめる行為で行政処分ではない。従つて行政訴訟の目的とはならない。

被告委員会は、自作法第六条第五項により、買収計画を定めた「旨」を公告し、同条所定の書類(買収計画書)を縦覧に供したのであつて、公告の文書は委員会代表者会長名義でした。原告が、本件買収計画の公告を無効と主張する理由は何等法令の根拠がない。

(三)  承認 府農地委員会が自作法第八条によつて行う買収計画の承認は、買収農地の所有者に対してする行政処分ではなく、買収計画を定めた市町村農地委員会に対してする行政庁相互間の内部的行為で、対外的関係における処分行為に属しない。

すなわち、買収計画の承認は、行政処分ではないから、それ自体は行政訴訟の目的とはならない。

大阪府農地委員会は、本件の買収計画について、自作法第八条により、被告委員会に対し、適法有効に承認をし承認書という書面を委員会代表者会長名義で作成して承認の相手方である被告委員会に交付している。」

(証拠省略)

理由

一、自作法による農地の買収は、市町村農地委員会、都道府県農地委員会、都道府県知事の三つの行政庁によつてなされる一連の行為すなわち手続によつて行われるもので、まず市町村農地委員会が買収計画を定め、その旨を公告するとともに買収計画書を作成して縦覧に供し、所有者から異議の申立があるとこれに対する決定をし、その決定に対し訴願があると都道府県農地委員会はこれに対する裁決をし、その後市町村農地委員会からの申請によつて買収計画の承認をし、承認のあつた買収計画にもとずいて都道府県知事は買収令書を所有者に交付し、場合によつてはこれにかえてその内容を公告する。その買収令書の交付またはそれにかわる公告(以下単に買収令書の交付という)があると、その農地について国が所有権を取得し従来の所有者の所有権が消滅する等買収の法律効果が発生することになるわけである。買収令書の交付があると右の法律効果が発生し、その交付のないうちはその法律効果は発生しない。そこで右の法律効果は買収令書の交付によつて発生するといつてもよい。(それで以下買収令書の交付を適当に買収処分という。)ところで、右の法律効果が発生するためには、右の一連の行為がすべて法律のこれについての規定に適合して、すなわち適法になされていなければならない。いずれかの行為が違法であれば買収処分があつても右の法律効果が発生しない。法律効果が発生しないという意味で買収処分の違法ということをいうならば、それまでの各行為の違法はすべて買収処分を違法にする。すなわち、前の行為の違法をすべて買収処分が承継するということができるが買収令書の交付だけで独立して法律効果を発生させるものでないことの表現である。

さて、通常の民事訴訟において訴訟の目的が直接に現在の権利または法律関係の存否でなければならないのに対して、行政処分の取消をもとめまたはその無効の確定をもとめる訴訟においては行政処分の効力の存否が訴訟の目的となつているのであるが、しかし、実質的には結局その行政処分によつて発生消滅または変動する一定の権利または法律関係の確定がもとめられていると考えてよい。この点からいつて、訴訟の目的たりうる行政処分はその効力の確定が、一定の権利または法律関係を直接確定するに適したものでなければならない。

そこで、これを自作法による農地買収の手続についてみるとその手続は農地の所有権の得喪とこれに附随した一連の権利の得喪という一定の法律効果に向けられた手続であつて、その手続の効力を争うことは結局実質的には右の一定の法律効果を争うことにほかならない。これを訴をもつて争う場合右の手続のうちのどの行為を行政処分としてとらえて、その効力について争うのが適当したがつて適法かといえば、買収令書の交付がこれに当ることは前にのべたところによつて明らかである。その効力が否定されることは、すなわち全手続による法律効果が否定されることであるし、そのためには手続上の各行為の適否はすでに判断を受けることになること前にのべた通りである。

買収処分のある前に、その前段階の各行為をいちいち訴訟の目的とすることは、その手続による法律効果がまだ発生する段階にいたつていないのに先走つて小きざみに、法律効果としてこれから発生すると考えられる権利の変動を争うことになり、訴訟の実質的な目的である権利ないし法律関係がまだ可能の状態にあつて現実化していないことからいつても、また、それらの各行為の効力が(たとえば有効と)確定されても、直ちに買収の法律効果が(たとえば有効と)確定されるものでもないことから考えても、前に民事訴訟の原則と対比して述べたところからいつて、一般に適当でなく、いまだ訴の目的とするに熟していないものといわねばならない。また、買収処分のあつた後は買収処分の効力を争えば足り、各行為の効力を独立して確定する必要がないし、確定したところで、直ちに買収の効果を確定するに足りないこと右にのべた通りである。

ただ、買収計画は右の点で例外的な地位をもつ。上記の民事訴訟の原則は、裁判制度が社会の法律生活の必要に対し一定の限度で利用に応ずるその対応の仕方を形式化したもので、裁判制度を利用するに足る必要の程度を限定した形式である。その形式からもれても、必要としてはその形式に適合した場合と異らない場合もでてくるわけであつて、法律は各個にそれらをひろいあげて訴の目的とすることができる規定をおいてこれに対処しているが(たとえば文書真否確認の訴訟)法律の特別の規定のない場合にも理論的に測定して訴の目的とする必要のある場合にこれをみとめることが、制度の趣旨に合うものといわねばならない。これを買収計画についていうと、農地買収手続においては、買収計画がその中核をなし、その後の行為はその実現の過程である点から、自作法はとくにこれに対してその段階で異議の申立および訴願をすることをみとめており(かえつて買収処分に対しては異議の申立および訴願をみとめていない)、買収計画はその公告によつて、農地の権利者に現状維持の義務を生じさせるという附随的ではあるが独立した法律効果をもつている点を別にしても、買収手続の基本をなすところから考えて独立して訴の目的とすることをゆるすのが法の趣旨に合致するものということができる。そして、買収計画に対する異議の申立に対する決定および訴願に対する裁決は、買収手続におけるいわば副次的な過程で、買収計画そのものに附随した行政的救済の手続である。したがつて買収計画が訴の目的とすることができる以上、いわばその延長として、これらの処分も訴の目的とすることができるといわねばならない。

二、原告が本訴で請求の趣旨として、取消なり無効の確認なりをもとめているものを数えると、本件土地についての「政府の買収」と、「買収計画」とその「公告」と、「承認」と、「買収令書の発行」とである。

そのうち、訴の目的として、「買収計画」が一応適法なこと「公告」と「承認」とが不適法なことは上に述べたところから明らかである。

「政府の買収」については、原告は買収手続のうち、買収計画から承認までの過程に、通じて一の行政処分を観念し、これを政府の買収とよぶ。しかし、訴訟で買収手続の法律効果を行政処分の効力として争う場合、買収処分の効力を訴の目的として争えば足り、買収計画(およびこれに関する異議についての決定と訴願に対する裁決)は別として、買収手続上のその他の行為の効力を特に訴の目的とすることの不適当で許されないことは上に述べた通りであり、まして、買収計画をふくむ承認までの過程について、総括的な一の行政処分を観念して、その効力を訴の目的とするようなことは、無意味な重複を重ねるだけのことで、とうてい許されるところではない。従つて、本訴のうちこの部分も不適法として却下をまぬがれない。

「買収令書の発行」について、原告はこれを買収令書の交付とは別に考えているようでもあり、買収処分は買収令書を作成しそしてこれを交付するわけであるが、意思表示たる行政処分として買収処分(買収令書の交付)は、買収令書の作成とその交付を含む一の行政処分で、作成の部分だけきりはなして別個の行政処分と考えるべきではない。原告は買収処分のうち買収令書の作成の点に重きをおいたため、これを切りはなして「買収令書の発行」としたものであるが、その趣旨は結局買収処分の効力を訴の目的としたものと考えられる。そして、買収処分の効力が訴の目的として適法なことは上に述べた通りである。

三、なお、原告は、右の「買収令書の発行」について、被告農業委員会との問においても、その無効の確認を請求するが、それらが被告委員会のした処分でないことは明らかであるから、被告農業委員会はこれについて被告たる適格はなく、同被告に対する関係においては、右の請求部分は不適法として却下すべきである。

四、また、原告は、買収計画について、被告農業委員会に対してその取消をもとめるほか、さらに同被告および被告国の両者に対して、その無効の確認をもとめる。しかし、買収計画の取消をもとめる請求について、買収計画の適否はすべて判断されるわけであるから、かさねて同委員会に、その無効の確認をもとめるのは重複たるをまぬがれないし、この種の訴は、処分庁を被告とするのが本則であり、それに対する判決は、国をも拘束するのであるから、処分庁たる被告農地委員会を被告として取消の訴を提起した以上、かさねて国を被告として無効確認の訴をおこす利益も必要もない。従つて、原告の訴のうち、被告農業委員会および被告国に対し、買収計画の無効確認をもとめる部分は不適法として却下せざるを得ない。

五、被告委員会は、昭和二二年一〇月八日、原告所有の本件土地について、自作法にもとずき農地買収計画を定め、同日その旨を公告するとともに、同日から十日間買収計画書を縦覧に供したが、原告は右買収計画に対して、異議の申立も訴願もしなかつた。大阪府農地委員会は、同年一二月一日、右買収計画を承認し、その後大阪府知事は、右買収計画にもとずいて原告に買収令書を交付した。以上の事実は、買収計画およびその公告の日および買収計画書の縦覧期間の点が、成立に争のない乙第一号証第二号証によつて明らかなほか、当事者間に争がない。

六、被告は、右買収計画の取消をもとめる本訴を、出訴期間経過後に提起された不適法な訴であると主張する。

なるほど、右買収計画が定められ、その旨の公告のあつた昭和二二年一〇月八日から、本訴が提起された昭和二三年七月一四日まで、原告の異議の申立も訴願もなく、自作法附則第七条に定める昭和二二年一二月二六日から二ケ月の出訴期間をすぎた後に提起された訴であることは明らかである。

しかし、前に述べた通り、自作法による買収手続がその目的とする法律効果は、買収令書の交付によつてはじめて生ずるのであつて、買収令書の交付あるまではその法律効果はまだ現実には発生せず、買収計画はその法律効果発生にいたるまでの一過程にすぎない。買収計画も買収処分(買収令書の交付)も、買収手続の一環として同じ一つの法律効果をめざしているのであり、いつてみれば、買収計画は生成中の買収処分であつて、その点で、本来それぞれ別個独立の法律効果をもつ二個の行政処分とは異る。前述のように、買収計画を取消の訴の目的としてみとめるについて、その点をわかりやすく、買収計画を一つの独立した行政処分とよぶのはよいとして、訴の目的として独立の行政処分なみにあつかうからといつて、そのことから直ちに買収処分との上記の関係を無視して、法律効果を異にする別個の行政処分とすべて同じにあつかわねばならないものではない。

買収計画の取消をもとめる訴も、ひつきようするに、買収処分によつて発生する法律効果を否定しようとするわけである。そして出訴期間を定めた目的が、行政処分の効果を長く不確実な状態におくことを避けるためであるとすれば、その法律効果が発生してから所定の期間を数えて訴を遮断するのが、その建前とみなければならない。その趣旨からいうと、買収計画取消の訴についても、買収計画はいわば生成中の買収処分として、その出訴期間の標準となる(「処分」のあつたことを知つた日または「処分」の日からの)処分としては、買収処分がこれに当るものと解し、買収処分のあつたことを知つた日または買収処分の日から出訴期間を起算するのが、買収計画が買収手続中の行為たる性質に適合するものと考える。

これを別の点からいつても、買収処分取消の訴においては、買収計画の適否はすべて争うことができ、買収計画に対し異議の申立も訴願も出訴もしなかつたとしても、そのことは異らないのであり、買収計画について別個に出訴期間をみとめると、その出訴期間経過後は、買収計画についての適否は争えなくなり、その後買収処分が行われると再び争うことができるようになるということになり、その目的から遊離して出訴期間の規定をもてあそぶに似る。

もつとも、手続の過程を区切つて、一区切りごとに出訴期間で適法性を確定していくということも立法技術的に可能であるがそのためには、法規でその点が明確に定められなければならない。そういう点の明確な規定のないかぎり、上のように解するほかはない。自作法第四七条の二または附則第七条の規定が、買収計画について、とくに独立してその適法性を確定させるというほどの趣旨とは解することができない。(最高裁判所昭和二五年(オ)第一二六号事件、昭和二七年九月二六日言渡の判決において、買収計画に対する訴願の裁決を争うことは、通常買収計画を争うことになり、裁決が争えるかぎり、買収計画も争うことができる状態にありとすべきであるとして、これを行政事件訴訟特例法施行前においても、買収計画取消の訴の出訴期間は、その買収計画に対する訴願の裁決を知つた日から起算すべきことの根拠としている点を参照)。

そこで本件買収計画取消の訴について、その出訴期間は、買収令書が原告に交付された日または原告がそれを知つた日の翌日から起算すべきことになり、買収計画のあつた日を出訴期間の基準日とする被告の主張は採用できない。そして、本件では、買収令書が原告に交付された日が明らかでない。従つて、原告の右の訴を出訴期間経過後提起されたとみとめることができないので、その期間内に提起され、その点適法な訴として判断を加えるほかはない。

七、そこで、以下前記買収計画および買収処分の適否を検討しよう。

(一)  被告委員会が、原告所有の本件土地を、自作法第三条第一項第二号に該当する、いわゆる在村地主の保有面積を超過する小作地たる農地として前記買収計画を定めたものであることは、当事者双方において明らかに争わないところであり、原告が被告委員会の存する三野郷村に住所を有し、また、本件土地が小作地たる農地であつたことは原告自らみとめるところである。

(二)  保有面積

原告は自作地五段歩を所有するので、自作法第三条第一項第三号により、保有し得べき小作地は一町四段であると主張する。しかし、自作法第三条第一項第二号は、いわゆる在村地主の所有する小作地が大阪府にあつては六段歩を超える場合、超えただけの面積の小作地を買収することを定め、同第三号は、在村地主が、他に自作地を所有し、これをその所有する小作地と合せた面積が、大阪府にあつては一町九段を超える場合、超えただけの面積の小作地を買収することを定めている。(昭和二一年農林省告示第四二号、昭和二二年農林省告示第七二号)。すなわち、右第三号は、小作地だけの面積は第二号に定める六段歩以内であつても、自作地と合せた面積が一町九段を超える場合は、超えただけの面積の小作地を買収することを定めたものであり、在村地主でも、自作地が一町九段以上あれば、その所有の小作地は全部買収するわけである。右第三条第一項各号は、「買収する」という規定であつて、第二号で小作地六段歩まで、第三号で自作地小作地合せて一町九段までは「買収しない」と定めているのではない。その相違は、その第一号で「不在地主所有の小作地は買収する」といつているのと、それを裏返した「在村地主所有の小作地は買収しない」というのとでは、ちがうのと同様である。原告の主張は、右第三号を裏返して、「買収しない」とよんでいるのであつて、明らかに誤解である。

原告が、本件土地のほかに、小作地六段歩を所有し、買収されずに保有していることは、原告自らみとめるところであり、本件土地全部について、買収計画が定められ、買収処分が行われたことは、自作法のみとめた原告の小作地保有面積を少しも侵していない。

(三)  自作法第五条第五号

原告は、本件土地中七筆について、自作法第五条第五号により買収より除外すべきであると主張するが、その点をみとむべき何等の証拠もない。(自作法第五条に定める買収の消極的要件については、その存在を主張する者、本件においては原告にその立証責任があるものと考える)

(四)  本件の買収計画書に、本件買収地の面積として、土地台帳に記載された面積を記載していることは当事者双方において明らかに争わず、原告はこの点を違法と主張し、また買収計画に定めた対価が著しく低額であることを違法と主張するが(外畦畔の対価を欠くというのも、外畦畔も一筆の一部たる以上、対価の額を争うに帰着する)、まず対価の点をいえば対価については、自作法はその第一四条で、別に対価増額の訴について規定し、買収計画なり買収処分のその他の点と区別し、対価の額の不当は、買収計画なり買収処分のその他の点の効力に影響を及ぼさないものとしている趣旨が明らかであるから、対価の額の不当を理由に、買収計画、買収処分について対価以外の点の効力の取消なり無効確認をもとめる原告の請求は理由がないとしなければならない。そして、買収計画書や買収令書に農地の面積を記載するのは、その所在、地番、地目の記載と相まつて、農地を特定して指示するための一標識たるにすぎない。そのためには、一筆全部の買収であるかきり、自作法第一〇条本文の規定する通り、土地台帳に登録した地積を記載すれば足りる。それによつて、何も、その土地の面積を確定しようというわけではない。面積が対価に影響する関係においては、それは対価の額に対する不服の根拠として主張すれば足り、買収計画書、買収令書における面積の記載にかかわりなく、その主張をすればよいわけである。

八、(一) 市町村農地委員会(村委員会)が農地買収計画を定めるには、買収すべき農地と買収の時期と対価とを定めなければならない。そして、買収計画を定めたときは、遅滞なく、買収計画を定めたことを市役所または町村役場の掲示場に掲示して公告し、また、(1)買収すべき農地の所有者の氏名または名称および住所、(2)買収すべき農地の所在、地番、地目および面積、(3)対価、(4)買収の時期を記載した書類(買収計画書)を作つて、右の公告の日から十日間、市役所または町村役場でこれを縦覧しなければならない(自作法第六条同法施行令第三七条)。

ところで、買収計画書の右記載事項はいずれも、委員会が買収計画として、買収すべき農地と買収の時期と対価と(買収計画事項)を定めたならば、当然すでに明らかになつているべきところを記載するだけのことである。買収計画書記載事項のうち、所有者関係の事項が自作法第六条に買収計画事項としてあげられていないのは、買収計画事項の方は、委員会の決定の結果たる事項をあげているだけで、そのほかに、決定にいたる判断過程で当然経過すべき決定の理由とか事実認定の点まではとくにあらためて同条に規定するまでもないこととしているのであり、所有者が何人でその住所がどこにあるかというような事実認定は、買収要件をあてはめ買収すべき農地を決定する過程で当然明らかにされていなければならない事項である。だから、買収計画書記載事項の中には、買収計画事項の決定をするほかに、別に委員会が議決しておかねばならないような事項はない。買収計画書に上記記載事項について記載があり、委員会が買収計画を定めたことが明らかになれば、委員会は買収計画書に記載された事項を決定し、明らかにしたものと、まず、みるべきである。

また、右の買収計画書には自作法によつて上記(1)ないし(4)の事項を記載することが要求されているだけで、委員会が買収計画を定めるについて行つたその他の判断事項や委員会の何時の会議で決定されたかなどを記載したり、委員が署名捺印したりすることは必要とされていないし、なお、右の意味の買収計画書以外に、村委員会が買収計画の内容を記載した書類を作成することは法律上少しも必要ではない。

つぎに上記の公告は、農地買収計画を定めたということが明らかなる文言を掲示すれば足り、(例えば、場合によつて、買収計画書の縦覧の期間と場所とだけを掲示したような場合でも、これによつて買収計画を定めたことが明らかにみとめられるかぎり、右の公告としてはそれで足りるということができる)買収計画の内容は、買収計画書の縦覧によつてわかるようになつているから、公告には以上のほか、買収計画の内容にわたつた掲示をすることは自作法の要求するところではない。

また公告は、買収計画書を作成して、縦覧に供する行為とともに、委員会の決定(買収計画)を外部に表示する行為で、買収計画を定めたならばその事後の処理として法律上当然行わなければならない行為でもあつて、この種の事務は、委員会を代表し会務を総理する会長の行つてよいことであり、あらためてそのために、委員会の議決などを必要とするものではない。公告の体裁も、委員会の公告であることがわかれば足り、この場合、委員会の名でしてもよく、会長の名でしてもよい。

なお、農地委員会の会議については、会長が議事録を作つて縦覧に供しなければならない(農地調整法第一五条の一一第四項)。議事録は議事の経過を証明するための文書であるが、議事の経過なり内容なりは、議事録によつてのみ証明されなければならないものではなく、議事録に議決の結果のみ記載されていて、内容の詳細や議決の理由、審議の内容などの記載がないとしても、直ちにその点の審議なり議決がなかつたとしなければならないものではない。

そこで、成立に争のない乙第一号証(議事録)第二号証(買収計画書)を総合すれば、被告委員会が本件土地について上記の買収計画事項を決定して農地買収計画を定め、これに従つて前記必要記載事項を記載した買収計画書を作成したことをみとめることができ、また、成立に争のない乙第三号証(公示の控)によれば、被告委員会が、「公示」と題し、被告委員会が定めた第四回買収計画を縦覧に供する旨並に縦覧の日時場所を記載した、「三野郷村農地委員会、会長高井定次郎」名義の文書を三野郷村役場に掲示して買収計画を定めたことを公告し公告の日から十日間右の買収計画書を右役場において縦覧に供したことをみとめることができる。従つて、これによつて本件土地に対する農地買収計画は適法に決定され、適法にその旨の公告がなされ、適法に買収計画書が縦覧に供せられたものといわねばならない。

これらを違法とする原告等の主張が理由のないことは上に述べたところによつて明らかである。

(二) 村委員会の定めた農地買収計画に対し、都道府県農地委員会(府委員会)の行う承認は、農地買収手続の過程において、買収計画にもとずいて知事が行う買収処分に先行すべき行為であつて、右の承認があつても、村委員会としてはもはや別に何もすることはない。ただ、買収計画を定める村委員会と、その承認を行う府委員会と、買収処分を行う知事とは、それぞれ別な行政庁であり、買収手続が買収計画、承認、買収処分と進展するためには、右の三つの行政庁の間でその間の連絡が事実上必要であるが、それは行政庁が適宜に処理すべき相互の連絡の問題であつて、適当に連絡さえ行われれば、どのように行われてもかまわないわけである。

自作法第八条は、「市町村農地委員会は遅滞なく当該農地買収計画について都道府県農地委員会の承認を受けなければならない」と規定しているので、承認は村委員会の申出によつて行われるということになるが、たとえば自作法第五条第五号によつて村委員会が農地買収から除外する土地の指定を行う場合に、府委員会の承認を得て行わなければならないという場合のように、村委員会がその承認によつて権限づけられ、その承認をまつて行為を行うという場合とちがい、農地買収手続の順序からいつて農地買収計画についての承認は、村委員会を権限づけるのではなくて、買収処分を行う知事を権限づける行為である。従つて、承認を村委員会が「受ける」といつても、眼目は、府委員会に対し承認の対象たる買収計画を明らかにしその承認を促す点にあるわけであつて、承認があると買収手続は府委員会の手から、知事の手にうつることになつて、その間村委員会としては、上記連絡事務を別にして、ほかにすることはない。府委員会が承認の対象とするのは、村委員会の買収計画のうち、異議に対する決定および訴願の裁決等によつて取消されなかつた部分であるから、村委員会は承認の対象たるべきそのような買収計画が府委員会にわかるようにしてその承認を促せばよいわけで、そのために適当な連絡をすれば、時期方法は問う必要がない。その申請の方法についても、法令に別段の定めはないので、自由に適当な方法によつてよいし、またその申請について村委員会の議決も必要ではなく、会長が適宜に処理すればよい。

府委員会が買収計画について承認の議決をした場合、承認書というような、書類を作成することはとくに要求されていない。前にのべた通り、その承認は村委員会について別に効力を生ずるというものではないので、村委員会に対する意思表示というような性質の行為ではない。府委員会の承認という議決が、議決として買収手続の中の一環たる意味をもつているのであつて議決の後、承認のあつた買収計画を整理して、これにもとずいて知事が買収処分を行えるようにし、知事の買収処分を促す行為が必要であるが、それが行政庁の連絡の問題であることは上に述べた。そういう整理連絡のために、村委員会に対し承認の議決のあつたことが通知されるであろうが、その通知は意思表示における表示行為のように、承認の効力に関係のある行為ではない。知事は農地買収計画について府委員会で承認の議決があつて、これを知つたならば、その買収計画にもとずいて直ちに買収処分を行うことができる。場合によつては、承認の議決が村委員会に通知される前であつても、買収処分を行うことが事実上できれば、これを行つても少しも違法ではない。

本件土地の買収計画について、大阪府農地委員会が承認の議決をしたことは当事者間に争のないところであり、原告がその承認を違法と主張するところがすべて理由のないことは以上にのべたところで明らかであり、右買収計画の承認は、適法に行われたものといわねばならない。

(三) 本件土地について大阪府知事が被告委員会の上記買収計画により原告に買収令書を交付して、買収処分を行つたことは当事者間に争がなく、その買収令書(本件買収令書)に自作法第九条第一項に掲げた事項の記載があつたことは、原告も特に争わない。

原告が右の本件買収処分を違法とする理由について論述するところは、買収処分の効力についての一般的なそしてまた仮定的な法律論と、本件買収処分についての具体的な瑕疵の指摘との区別が明らかでないが、(1)買収令書に表示された買収要項が買収計画の内容に一致しない場合および(2)買収令書に誤記違算がある場合に、買収令書が無効であるとの一般的な法律論の形をとつた主張についていうと、本件買収令書について、その買収計画との不一致の点なり、誤記違算の点の具体的な主張がなく、その立証もない。買収令書は原告に交付されたものであるから、原告こそ、それらの点を具体的に指摘し立証することが容易な立場にありながら、ながい間口頭弁論をつずけてきたけれども、その間その主張も立証もなかつたこと、および、上記原告の主張が、謄写版ずりの準備書面にもとずいて陳述され、本件のほかに当裁判所に原告訴訟代理人を代理人として繋属する実に多くの農地買収処分不服の訴訟において、原告訴訟代理人が右と全く同一内容の準備書面を提出していること(当裁判所に顕著である)、弁論の全趣旨にあらわれたこれらの事情から判断して、本件買収令書には、実は、原告の論述しているような右の欠点はなかつたものとみとめるのが相当であると考える。

本件買収令書の交付が、買収計画について大阪府農地委員会の承認の議決があつた後になされたことは、当事者間に争がない。原告は買収計画の承認は承認書が村委員会に到達したとき効力を発生し、その効力発生前になされた買収処分は無効であるとの趣旨の主張をし、大阪府農地委員会が、右の承認について承認書という文書をつくつて被告委員会に送付したことは被告等もみとめるところであるが、これは、承認の通知の意味をもつにすぎないこと、またその時期が、買収の時期の後であろうが、買収処分の後であろうが、これによつて買収処分の効力には少しも影響のないことは前にのべた。

また、本件買収処分が、買収計画に定められ従つて買収令書に記載された買収の時期の後になされたことは、被告等のみとめるところである。買収計画は買収の効果が発生する時期として買収の時期を定めており、買収の効果は買収処分がなければ発生しないが、買収処分が、買収の時期の後になされても、その効果を処分前の買収の時期まで遡つて発生させることは可能であり、とくにこれを禁じた趣旨の規定もなく、これによつて処分の効果を受ける者の権利を不当に侵害しないかぎり、違法ではない。買収計画は一般に公告され、これによつて買収処分の行われることが、予告されているのであるから、買収処分が買収の時期から多少おくれて行われたとしても、処分の効果を受ける者の権利を不当に侵害するとは考えられない。従つて、買収の時期の後に行われた本件買収処分もその点を違法ということはできない。

原告等が本件買収処分についてその違法を主張するところはすべて理由がなく、本件買収処分は適法に行われたといわねばならない。

九、以上により、本件土地についての被告委員会の買収計画、その公告、大阪府農地委員会の買収計画についての承認、大阪府知事の買収処分はすべて適法に行われたとみとむべきこと明らかであつて、右買収計画の取消および買収処分の無効確認をもとめる原告の本訴請求はすべて理由がないといわねばならない。

十、よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 山下朝一 鈴木敏夫 萩原寿雄)

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